● ○○ 第110回あすか倶楽部 10周年特別記念講演会 ●○○

日時:2009年4月18日(土)14:00〜
テーマ:変わるビジネスモデルと消費者啓発
講 師:上智大学経済学部 名誉教授 田中利見氏

場所:トヨタ自動車(株)池袋ビル7階702会議室



はじめに
 あすか倶楽部での講演は9年振りとなるが、前回どの様なことを話したかをHP上で確認したところ、21世紀に向かって「高齢化社会」「インターネット」「互助会方式NPOの役割」「どう生きるかからどう死ぬかへ」「精神の時代へ」などであった。 今振り返ると、9年前の予想はほぼ合っているように思われ、自分自身の考え方も変わっていないと考えている。そこで時の流れを踏まえた大きな意味での産業文化ではなくミクロで具体的なビジネスモデルの変化について話を進めて行きたいと思う。

例えば、これまでは自動車を前提にビジネスモデルがつくられてきたが、これからは車を使わないように、新しいビジネスモデルの転換が必要になってきた。

3つの嘘
・「100年に一度の経済危機」ほんとうにそうだろうか。
芸人がコメントするようなマスコミは信用できない(真の専門分野のプロの分析が必要)。戦争が終わった1945年(ではなく負けた年)、を考えれば、今ののんびりした状況は100年に一度の経済危機ではない。オイルショックも大変だったし、バブル崩壊後の大銀行の倒産など、今より大変な状態だった。昔のことはすっかり忘れている。そんなに大騒ぎすることは無い。
戦後、大陸での開拓農民とその家族、シベリアでの強制抑留者は大変な苦労をされた。帰国後、その人達の労働力を開拓に向け日本の復興の礎を築くというのが当時の国策であった。その上に日本の農業が発展して来た。
「派遣切り」が問題となっているが、若者を開拓農民として農業・漁業など一次産業に再投入するのも一方策ではないか? 職業訓練は必要であるが。

・アメリカが風邪を引けば、日本は肺炎? 本当か? サブプライムローン問題以降実は円高になったのは、日本の潜在的な強さが評価されているのではないか。円高を支える日本の価値とは技術力・労働力・銀行の盤石さでは無かろうか。

・こういう危機のときこそ和魂洋才というが本当だろうか。「大和魂」「武士道」は日本人の誇りか。確かにそれはそれでいいが、ややもすれば、魂・根性は日本人だけのものとしがちになる。これが日本陸軍や偏狭な愛国主義者に典型で、傲慢な国家を作った結果、敗戦へ突き進んだ。

「和魂」というが、外国人にも精神がある。それは「科学という精神である」
例えば、ガリレオは科学・事実のために命を賭けた。客観的なものに、精神を見る。ヤンキー魂、フロンティアスピリット、ジョンブル魂などそれぞれの国にはそれそれの精神がある。 かたや日本軍は、科学精神に基づくロジスティクス戦略も無しに根性だけで、武器弾薬、食料、薬品もなく、戦わずして、わずかに夜襲を掛けて敗れた。日本人だけが特別優れているわけではない。その間違いが何百万もの命を奪ってしまった。大将の切腹なぞ万死に値しない。
科学精神の無い武士道な無謀である。

世界経済不況下の産業振興戦略
・慌てず「現実の中に事実を見極め 基本に立ち返り 可能性を探り、強さを活かす!」
 USはUSとして、経済の回復を考えている。オバマが選ばれたという理由はそこにある。自動車産業不況を考えても、車社会=アメリカであるからアメリカ国民にとって必要なもので、いずれ効率の良い日本車は買われる。アメリカに負けた世代が、アメリカが負けることは小気味いいが、いざというときのアメリカ人の結束力は敵にしていいかどうか、外交は損得で判断すべきだ。日本もパートナーシップをしっかり持っていくことは必要なこと。

 中国の状況は経済成長が6%に落ちたといってもやはり中成長は続けている。経済は発展し、高級車から売れている。都市間の高速道路のトイレなども美しく、都心はゴミも落ちていない。いつまでも昔の中国を思っていてはいけない。

 上海では、1億人の10%、1000万人が年収1000万円を超えて、
人件費、食費の安さを考えると、日本より裕福な状況が生まれている。なぜ中国は元気なのか?共産党がお金を持ち、公共投資がスムーズに進んでいるからである。まさに階級社会でありインドも同様で、グローバル化が進んできたことで、高級なものをどんどん買う市場=中国・インドである。

ただ、日本の現状を見ると、働く意欲が欠如しており、紙一枚でも集めて稼ぐ中国の乞食の貪欲さを見習う必要もある。日本人も戦後はたくましかった。

・お金の使い方〜消費者の意識改革、高齢者市場の開拓
金がたまればどうするか?田舎は大きな家を建てるだけでお金の使い方を知らない。SAVE MONEYだけではなく ENJOY MONEYを!国鉄コンテナのカラオケBOXで缶ビールでは寂しい。何故、イタリアやフランスの農民のように広い野外で歌わないか? 楽しさが無いと、おいしい物は出てこない。

・消費者問題は「人生の考え方」にある。日本庶民には科学精神が無くても 創意工夫はある。1549年ザビエルがキリスト教を布教してから僅か1年後に鉄砲が普及。このような日本人の才能はこれまでも、これからも我が国の競争力である。
欧米には科学精神があると言ったが、それ以上にキリスト教精神が定着している。人間がサルから進化したなんてありえない!とキリストの復活を信じている人々が本気で貧しい国々で布教や奉仕精神で病院や弱者救済をしている。日本の仏教寺院でそういうところはあるか?例外的に合理精神を持っていた信長によって破壊されてから、日本の宗教界は葬儀業者になってしまった。弱者を救済している宗教家を町角で見かけることがなくなった。

 西欧には選択の自由を支えるのが競争であると考えられている。日本人の大半は競争はけんかで、自由は勝って気ままで良くない「和」が大事と考えている。だから日本は何でも画一的で自由が無い。グローバルな時代こそ「洋魂」と「和才」の時代に 実はあるのではないか?自由と競争を前提に技術・科学を活かして、日本のよさを発揮すべきではないのか?

 知的に考える=人と違う考えを持ってみることが肝要。人のいうことで動いている=知性ではない。新しいビジネスはそこから誕生する。

1.ビジネスのモデルの変化
1)商品
 物にサービスのアフターサービスから、サービスそのものを商品とする時
 代へ。つまりサービスも「ソフト」を内包するように変化してきている現状
 を理解しないといけない。 そのためには他人を理解することが大事である。
 例えば、自分の子供 孫 ペットなどを年賀状にする人は、見てくれる人が
 何を求めているかを理解しない人で、「マーケッター」にはなれない。これか
 らは写真を撮ってきたら、PCでスライドショーにして好きな音楽をつけ夕食
 時夫婦でワインを傾けながら楽しんほしい。これなら他人の迷惑にならない。
 写真屋はDPEではなくCでこんなサービスを提供すべきだろう。
 酒販売店もお酒の販売だけでなく楽しみ方も提供 蔵見学会やイベント=  仲間での試飲=写真+音楽=CDと何度も楽しめる「ソフト」を商品に。多くのビジネスが家庭でダウンロードして楽しむ。デジタル小売業に変わってくるはず。5年前にレコード協会の依頼でレポートを作成し、店頭のデジタル対応の強化などを提言した。

2)客層
若者が過去はもっとも多かった。ちょっと前は、団塊、熟年、高齢者。
地方では、100才になった、寝たきり高齢者に表彰状を出すような記事を良く見かけるが、ただ長生きをしていることが本当にメデタイことなのか?ところで、岩手県では70才以上の交通事故が増えている。田舎ではクルマは必需品で安ければ何でも良く大体が軽自動車であるが、軽トラックどうしの事故は増えている。これも、ほとんど「高齢者マーク」であり、これから運転免許持たない人、運転が危険なひとが増えてゆくと考えると、郊外のショッピングセンターのモデルは高齢者に合わない。環境問題、ガソリンの値上がりを考えても今後は、ホームショッパーの増加となる。

3)立地
かつて移動は、陸上では徒歩や馬車で街道が、水上では、港湾が賑わい、鉄道の時代に入り駅前が持てはやされた。やがて自動車の時代になり、バイパス・郊外へと賑わいが移動した。これからは仮想空間へと変わってゆく。しかし、目の前にいるお客様が変化しているのに、適応できない商店が多い、郊外型SCなどイオンなどが中心となったモールができている。岩手でも 盛岡市の周辺に4箇所もあるが、最近は通販や仮想空間からの注文などが増えている。

4)商法
 「商」とは元々「唱、声をかけて売っていたことに由来する。
日本でも昔は行商が多く、薬売りや豆腐のラッパ。イギリスでは、アイスクリームを売るのに、オーソレミオを歌っていたそうだ。

「売」は、店頭販売のことである。店舗小売業の売り上げは減って、通信販売が3兆8800億円を超えてきた。ここ数年年率10%前後の伸びで、家で買う人が増えてきている。今年は一桁ののびになった。
ジャパネット・タカタは、自分でスタジオを持ち、自前のCMを作成して全国に発信している。地方でも全国に向けた対応が可能となってきている。九州の「やずや」がニンニクを全国に売っているのもひとつの例であるが、

通販は伸びているが、訪問販売=行商 は難しい方向。女性が以前のように家に居ないこともあり、かつて訪販の代表であったPOLAなども、オルビスの名前で通販の売り上げ比率の方が高くなっている。20年前、花王の部長に通販の実施を提案した当時は、「そんないかがわしいものはできない。」といわれたが、今や日陰の「通販」から、大きく変化した。
ただ、訪問販売は廃れているが、移動販売は伸びつつある。地方の町の商店はだめになったが、岩手の山間僻地の移動販売で1台で1億円というところもある。東京でも千代田区などでは、居住人口は5万人。昼間の人口は100万人という状況の中、移動販売のお弁当屋さんが増えている。

イギリスのブーツという会社は、化粧品販売店だが、昼はサンドイッチも売る。働いている人のことも考えて、ついでに化粧品も見てくれれば・・ということである。都会の過疎地を活かして、物を売っていくことができるはず。お客様の方へ動いていって稼ぐという発想。腰の重い商人が廃れていく。

5)メディア
活字媒体→電波媒体→電子媒体→インターネット と変化してきた。メディアの「リアルタイム性」が重要となり、岩手では田舎の言葉でそのまましゃべることを前提にした放送も盛んになっている。また、インターネットを組み合わせて楽しむなどの新しい楽しみもかたもできる。

6)情報文化
TVを録画して見ること(受信)だけの時代からビデで記録・鑑賞する時代になり、やがて発信し、メールやおしゃべりを楽しみ、さらには特定の仲間や不特定の人と社会を作る交信文化の時代になったが、そこは無法地帯で消費者問題が多く発生するようになった、

7)支払 
付け払いは1年間の借金を収穫で払う農業経済に立脚した侍の借金生活が前提で、信用できる人には 安く売る。信用できない=高く売る。リスク管理が当たり前、それから、商人やサラリーマン社旗では現金支払いが原則になり、やがてカードで消費を拡大しているうちに、ローンが増え、カードの不渡り事故が多くなって来た。いつの間にかクレジットの自動引き落としや公共料金自動支払いが当然になってきた。最近では。電子マネー ポイントカードが増えて来た。得なのか?損なのか。ポイントは取れるより値段を下げたほうがよいのでは?背景には「高齢者の増加」「働く女性の増加」「バーチャル消費者の増加」も影響している。

2.市場の変化 高齢者へのライフスタイル提案
1)健康と美容
「歯」と「足」=>「健康・美容」
「医と食」高齢者は量ではなく、香り、わわらか、おいしいということ。
介護現場でも「おいしく」食べられる食品、嚥下力が弱くても。
女性は美しくありたい。90歳でも、死の前日でも死後装束でもで美しくありたいと願っている。太っても、禿げても、動物は悩まない。人間が悩むところにマーケットが発達する。

2)趣味と旅行
脱・年齢偏見 脱観光 脱団体が大事。仮に高齢者を100人調査すると、同じ趣味の人が5人といない。ゴルフの人・つりの人・・趣味の多様化の時代。当面は海外旅行であるが、やっぱ日本が一番。海外ではうまいものに出会えないという不満を聞くが、パックの団体海外旅行では当然である。地元の人が行く旨く安い店には連れて行かない。例:フランスで20万つかうなら、国内旅行で20万(金沢・福岡・・・)の方が効果が高い。
また、旅行でも、年寄りだから・・・という偏見を捨てるべき時。読書会の時90歳の婦人に田舎でのレストランで、何が食べたいか聞いたところ、「パエリア!」との答え。残り少ないからこそ新しい体験をしたいそうだ。ゴルフでも80歳以上でラウンド中私よりも飛ばす人もいる・・
名所・旧跡は飽きる。 美しいものや付帯する楽しみ「おいしいもの」滞在型どう作るか?
近所の農村には。都会の若者がわらじを編みに来る。体験型が喜ばれる。
漁師のザッパ船で 魚を取り 浜で焼いて食べる。 これも体験型
わんこそばに挑戦してみたい。=>やはりこれも体験型 
しかし・・田舎の旅館は 高い。解凍したマグロ そんなものダメ 普通の晩御飯やコンビニの弁当で十分 板前は勉強しない学者と同じ、若いときの勉強から抜け出ない。
ディズニーランドに行くヨーロッパの若者はいない。夏には学生は田舎へ 行って歴史・文化を学ぶ。わざわざ作り物のディズニーランドに行く日本の若者は知的レベルが低い。
新幹線ができると、個人旅行・グループ旅行が増えた。(二戸の新幹線駅)
ビジネスの出張者による、ツーリズムの増加。 楽しみ方の変化。ただし、少人数を受け入れる受け入れ方を工夫する必要性がある。

3)終末市場
死生学 どう生きるか どう死ぬか 日本消費者協会発行の葬式の本はよく売れた。だまされないようにするにどうするか?
地方では、墓石が立派。結婚式も引き出物が多く、冠婚葬祭に金をつぎ込みすぎ。家意識が無駄な金を使い、石屋・葬儀屋が儲かる。何のためにお金をためているか?消費生活アドバイザーは 金の使い方のアドバイスも必要。叙勲パーティー最近は 葬儀もホテルが増えてきた。田舎ではターミナルケア、介護などにもより多くのお金をとの考えはない。

3.今後の経営課題
1)ミクロマーケティング
マイクロマーケットとロングテール
大量に売れるヘッドゾーンだけではなく、少量・多品種のテールゾーンが商売になる。在庫の必要が無いため。地方の小さなお菓子屋さんでも全国に配送可能。
自分の小さな「マーケット」、音楽など趣味の世界がマーケットになる。
例えば、小布施の小さな饅頭やでも儲かる。自分が食べていくだけの商売でよい。
畑仕事+竹細工の副業で、小さなクラフト・コテージビジネスがインターネットで需要を支えるように マイクロマーケットを大事にすべき時。

2)ダイレクトレスポンシビリティ(直接責任)マーケティング
売った後の「直接責任」が可能なのが、「通信販売」
大企業のトレーサビリティー向上、欠陥品問題などでもダイレクトレスポンシビリティーという考え方を導入すべき。

3)スローライフマーケティング
ヨーロッパでは地方でおいしいものを食べている。休暇でも、長期に楽しんでいる。若者は働き、老人が楽しむ。これが人生の原則である。日本は教育から住宅、結婚、孫育てまで親が面倒見すぎる。
最後に私事で恐縮であるが、ヨーロッパで馴染んだ田舎暮らしを退職後楽しんでいます。自宅では、薪ストーブ、畑も少しあるがシルバーセンターに頼んでは好きな花を植えてもらっている。田舎の人はまじめで何故トマトやきうりを作らないかと不思議がられるがそんなことは産直で買うので十分。土いじりはきらいである。農業ではなく田舎の風景やゴルフや居酒屋を楽しんでいる。りんごの花を見ながら、小屋で「パーティー」を楽しむようなスローライフのマーケティングを提唱してゆきたい。

4.消費者啓発と消費生活アドバイザーの役割
 これまで述べてきたことを実現してゆくためには、地方への支援や消費者啓
発が重要で、その意味からも消費生活アドバイザーに期待するところ大であ
る。
 以下のようなポイントを踏まえて、消費者向けの活動を推進していって欲し
い。
1)企業より地域の消費者啓発(商店街との協力が必要)
これまでは消費生活アドバイザーは企業の啓発に尽力してきた。
ここ暫くで、食肉偽装、地鶏偽装、汚染米不当販売、鰻産地偽装など、悪いことは地方の中小企業から出てきている。地元に寄り添ったアドバイザーの在り方を考えていって欲しい。

2)消費より老後生活の啓発(健康から資産管理まで)
地方の高齢者は生活者意識が希薄である。全体的な啓発活動を。

3)消費生活アドバイザーチームの形成(地域社会との連携)

                          メモ20期 坂本一弘記、